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世の東西

サインをしたあとのトランプさんのあの得意気な顔のことまで書いてあとは翌日、とまではよかったが、その巻頭言の書きかけがどこを探しても見当たらない。きのうのことなのに、と思い外の急ぎの原稿に手をつけもう一度探す。ない-。多分東洋と欧米の線についての感覚の違いを書いていたと思う。
あれがもし和紙でにじみとかすれが出る紙だったらトランプさんは何というだろう。そんな心配は無用、側近は誰に言われるまでもなく、今まで通りのツルツルの紙に太目のサインペンを渡すだろうから-。しかし線に対する意識が全く違うことは当然前から知っていた。

油絵ではルオーが好きである。理由は簡単、グイッとした線が数本でもあるから。昔誰からか、二つの違う色をくっつけた時の境界線が線だということを聞いたことがある。キャンバスに色のない部分がない。東洋では塗りつぶしなどせず、ガランとあけて余白の美などと言っている。
書はその最たるもので、字の中の余白とまわりの余白、それらが作品の良し悪しを決める大きなポイントになる。

さあ、西洋と東洋の線と余白について、というよりも文化に対する考え方の違い、それを融合させるべきか、それぞれの文化をそれぞれに大切にしておくべきか、私は後者をとりたいが、「無視」ではなく互いに理解しようとするところまでは-、と思っている。
これは人類の発祥から数万年にわたる移動の歴史、人種の問題ではなくもっと大きなところから考えてもよさそうである。

江口大象(書源2018年9月号より)

 
   

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