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よい趣味

私より若い人は皆若い、とここ数十年言い続けてきた。事実私が会長になった平成二年は、私より年上が半分以上だったかと思う。あれから二十年以上経ったとはいうものの、全体の年齢がそのままアップしていることはいうまでもない。

私は最近三センチ以下の小さい字が思うように書けなくなったような気がしている。大抵失敗する。つい思わぬところへ行ってしまうことがしばしばで、だから稽古場での折手本の楷書と小さい字は勘弁させてもらっている。
そんな自分の痛みもあって、高齢の先生方の細字を見るのは非常に興味がある。以前大野篁軒氏の遺作展を見たとき、三十代の作だったか、見事な細楷作品が出ていて豊道春海のわが子を見送る際に書いたといわれる写経も、上田桑鳩の黄庭経の臨書も。皆気持ちが寵っている。不安がない。何の不安も感じられない。そんなことが最近気になり出している。
最近といえば、毎月「書の光」 で見る石川芳雲氏の原寸大半紙手本もすごい。私よりいくつか年上の筈であるのに、何の苦もなく (特に縦画)平然と書いておられる。

この前、二週間に一度薬を貰いにゆく近所の医院に行ったところしみじみ「平均寿命を越しましたね」といわれた。感慨深げな顔であった。今の日本の男の平均寿命は八十・五歳らしい (序に八十歳の人の余命は約九年)。笑ってすませてきたが、「あとはおまけの人生」 といわれたようで、今まで通り気楽に過ごせばいい、と都合のよいように解釈してきた。
粗大ゴミになりそうな定年後の男の姿、いや今からが人生だとボランティアや趣味に、熱中している姿、それは夫婦ともどもの場合もあれば片方だけの場合などさまざま。しかしこの趣味の一つに書道を楽しむ人が多いと聞く。中にはプロを目指す人もいるだろうが、それより楽しく「日本の文化」 「書の文化」 にはまり熱中できるよい趣味としての人気に注目されているようだ。
定年後のためにやっておけばよかったと後悔している上位に書道がはいっているそうな。

オット、これは若者を引き込むことには全く役に立たない文になってしまったようだ。まずは60歳以上の男女へ。次回はもっと情熱をこめて若者大募集のキャンペーンを打ちましょう。

江口大象(書源2016年2月号より)

 
   

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