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籠字のすすめ

  • 投稿日: 2023-05-23

  • カテゴリ: 未分類

川﨑 大開

私事で申し訳ないが、大悦会長とは先輩後輩の関係にある。私が高野山大学に入学した時、大悦会長は4回生だった。下宿先も近かったこともあり、よく遊びに行かせていただいた。

始めてお邪魔した時の思い出である。部屋の中央にテーブルがあり、お茶を出していただき、対面に座らせてもらった。しかし、テーブルには毛氈が敷いてあり、右端には硯が置かれていた。 毛氈は片づけないのかと聞くと、書きたいと思った時にいつでもすぐ書ける環境を維持したいので毛氈は片付けない、との返事が返ってきた。 食事も毛氈の上だったようだ。 会長の生活は何を置いても書道が中心であった。

別の日にお邪魔した折には、 大象先生の半切お手本が壁一面に貼られていた。いつも先生の書に触れていたいから貼れるだけ貼ったと。すごいですねと言うと、ニヤリと微笑まれ、天井を指さされた。何と天井にもお手本が。理由を聞くと、布団に入ると自然に天井を見るやろ、そこに先生の手本があると起きている間、常に刺激が受けられる、と微笑まれた。それから数日後のことであったと思う。 壁一面の先生のお手本はすべて外され、籠字を取ったお手本群に代わっていた。その籠字も丁寧かつ、細部にまでこだわったものであった。そして籠字を取ると、見ているだけでは気付かなかった発見がある、とおっしゃった。

書源の課題手本をはじめとした解説にはよく、字書で確認を、と書かれている。 皆さんも解説の通り字書で確認されているであろうし、作品制作の時には必ず字書を引かれていると思う。字書をコピーしてその作品用の資料を作られている方も多いのではないだろうか。最近では携帯電話に字書のアプリを取り込み、それを活用して制作されている方も増えた。

しかし一度、字書に薄紙を敷き、籠字を取ってみてほしい。すると見ているだけでは気付かなかった新たな発見が必ずある。これほど太細の変化があったのか、こんな広い空間であったのか、偏とのバランスの取り方はこうしたらよいのか、などなど枚挙にいとまがないほど。便利な現代的なモノを活用するのも良いであろうが、少し昔に返り、この素晴らしい古典的な方法もぜひとも取り入れてもらいたい。

皆さん、今一度、籠字を取ってみませんか。

 
   

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