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伝統と格式の継承

 書を志す我々にとって、文字について考えることを疎かにすることはできません。書道は文字とともに生まれたものです。
 中国で作られた文字は朝鮮半島を経て日本に伝わってきました。漢字が伝来するまで、我が国には文字らしい文字はなかったとされています(神代の時代に神字が存在していたとの説はありますが)。書道史では、応神天皇の時、百済の王仁が論語十巻と千字文一巻を進献したのが漢字の渡来の初めとされています。

 しかし私は、実際にはもっと古くから文字が伝わっていたのでは、と考察しています。日本・中国・朝鮮は隣接の地です。公的な往来の前に、民間では行き来があったと考えられるのではないでしょうか。つまり、漢字の渡来は応神天皇の時代を待つことなく行われていた、と私は考えます。王仁がもたらした文書は、国家として正式に漢字・漠文を学び始めたということであったと思っています。その後、漢字から派生した仮名文字の開発など、多くの人たちの手で文字は発達していきました。

 このように文字は我が国において長い歴史の中で、人びとの努力により現在まで伝わっていきました。今、当たり前のように文字を読み書きしていますが、このことを忘れてはいけません。
 我々は書の学習や制作をする時、日本の文字の歴史とともに、書の歴史にも思いを馳せる必要があります。三筆・三蹟については当然学んでいるわけですが、それだけでなく各時代に「〇〇の三筆」といわれる書家たちが時代を牽引し、現在があるのです。

 小坂先生・江口先生が大切にしてきた、伝統と格式を重んじる考えは、このような歴史に裏打ちされたものです。璞社として今後も継続できるよう、会員一人一人が肝に銘じ、精進していかなければならないと改めて思いました。

川﨑大開(書源2023年2号より)

 
   

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