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老を考える(考も老部の漢字)

こどもの頃、大人の会話中「ロートル」なる単語が何となく年寄りの事らしいなと思いながら何語かな?と気になった。中国語を習い始め「老頭児」(ラオトウル)と知った。確かに白髪になったり無くなったりするからか。新しい黄色の健康保険証が届く。「高齢者」の文字が飛び込んでくる。さしずめ黄色は信号と同じく要注意!の意か。老の字源は、腰を曲げ杖を突き髪を長く伸ばした年寄りの象という。髪長く以外はまさに自分の姿。説文にも七十歳を老というとある。

 近頃、臨時同級会場と化した病院の待合室での話題も脚力・気力・持久力・視力・聴力の減退そして記憶力。川柳の「万歩計その半分は探し物」は言い得て妙なりだが、ことに人の名前がすらっと出て来ない。Aが「町ですれ違った知ってる女性に、こんちわ!と挨拶したら女房でさ、えらく怒られたわ」。これには待合室が大爆笑となった。

 小生が「年寄りになると角が取れるとか、穏やかになるとかって言うけど、俺は最近自分が気短になってイライラして仕方ない」と言うとナベちゃん(小生の旧姓が渡邊)でもか?と。するとクラスのリーダー格だったFが「昔の様に頭や体が動かなくなってきたことが、自分に対して不満と苛立ちを感じる原因なんだよ」と。成る程、確かにと納得する。

 字書を見ても老の付く熟語が多い。が、中国語となると用法も違う。体験上では中国の骨董屋で気にした品物を手に取ると店員が「老了!」と言う。古い物だよ、の意。でもこれコピーだと言うと店員は「老了!」と言う。この場合の老は「でも良い物だよ」の意味になる。先生にあたる「老師」、旧友の「老朋友」、そして名前に老を付けると最上の敬意を表す。その証拠が上海の童衍方兄は、唐雲先生には常に「唐老」と呼び掛けていたことを思い出している。

川村龍洲(書源2022年8号より)

 
   

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