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線質の強さ

線質の強さと、格調の高さを追い求める探求心こそ璞社の理念とするところである。線質の強さと品格は対極にあるように思えるが、小坂、江口両先生はそれを理想とし、生涯追求し続けられた。

私は昨年、二度目の日展審査員に委嘱された。審査後、線質のあり方、特に強い線について考えさせられた。璞社の出品作はどれだけ線質に拘り、鍛錬されているかについてである。強い線は筆圧から生まれるので、極端に言えば擦り付けて書けば強くなるだろう。筆を浮かせた時には筆圧が加わりにくく強い線を表現しにくい。つまり強い線を求めれば、太細の変化より大小や潤渇の変化による表現が主になるように思う。一方、筆の特性は硬筆と違って抑揚により太細の変化を生み、それによって多彩な線質が生まれるところにある。その線質の多彩さが表現の幅となり、単なる伝達手段だけではなく、書が芸術作品となるまでになった所以と言える。

次に格調の高さであるが、現在の書道界では迫力のある強い線を求められている。迫力と品格とを共存させることが果たして可能なのか。璞社の先人が理想とした「品格を保ちながら線質の強さを表現する」ことは難題極まることなので、今は、まず線質の強さを主に置くしかないと思っている。

私自身、お稽古の際、字形や作品の作り方といった造形面の指導が多く、線質についてあまり触れてこなかったのではないかと反省している。もちろん書は「線と形」からで構成されているので形は無視できないが、線質こそが最も重要だということを忘れてはならない。理想となる線質の表現は容易くはないが反復練習しかない。しかし、線の良し悪しや強い線がどういうものかを理解できなければ、それを自分自身で表現することは不可能である。まずは良い作品をたくさん鑑賞したり、手本となる古典をよく観察し、見る目を養い、熱心に習い続けることが肝要である。

『線の行者』と称される小坂先生の流れをくむ璞社、書源会員の皆さんは、今一度「線質の重要性」を再認識し鍛錬してほしいと切に願っている。

山本大悦(書源2022年1号より)

 
   

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