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字書は何冊必要か

書家は個性豊かなオリジナル作品を書こうと日々精進しています。個性的な作品といっても文字を素材にしている書作品は、自分勝手に字形を変形したり手を加えることはダメです。書家にとって正しい文字を書く事は必須条件だと私は思っています。

ところが正しい文字と言っても、正しいという基準は何処にあるのか。そもそも正しいかを誰が決めたのか。などと疑問がわいてきます。一般には王羲之ならびにその系統の書を基準にしています。ところが王羲之の書は十七帖をはじめ手紙が多く、手紙を何枚も書き直したとも思えず、王羲之本人が間違えたり怪しい文字もある筈です。また原本がないため細部まで信用できるかは疑問です。

そこで私は字書で調べてもなお怪しいと思った字は、まず出版元の違う複数の字書で調べます。更にはその文字のルーツを探ります。たとえば「鹿」の草書体が分からず字書で調べるとしましょう。すると図③のような形が出てきます。上部はどう見ても楷書(図①)や行書(図②)からは想像が出来ません。ところが篆書を調べると図⑤の形で鹿の角の部分が草書体の上部を形どっていると分かります。それが分かることによって自信を持って書くことが出来るのです。つまり行書や草書が分からないとしても篆書体、言わばルーツまでも調べることによって、より確かになるのです。だから字書は一冊では不十分ですね。また同じ出版社だと内容がほぼ同じですので違う出版社のものが複数あれば良いと思います。それから初版本は間違いがあることもあるようですので常に改定した最新のものを買いなおして下さい。

何事も事前に十分な準備をすれば、安心して自信を持って物事に取り掛かれます。書作品を創作する時も同様です。撰文した後の文字調べには十分な時間を割いて下さい。その時間は決して無駄にはなりません。そのためにはまず最新の字書を複数手に入れてほしいと思っています。

 

山本大悦(書源2021年4月号より)

 
   

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