投稿日: 2021-03-02
カテゴリ: 巻頭言(他)
完全巣籠りの年末年始だった。七十五年の人生で初めての経験だが改めて命と思いやりの大切さを痛感している。昭和二十年八月十五日以来、有難いことに兵器による生命危機が無くなって七十五年の長年月が過ぎてきている。しかし、高血圧症をはじめ歩く成人病と言われている我が身にとってコロナウイルスの感染は怖い。
一月二日。炬燵にもぐり駅伝の実況を観ながら、「リレー」の日本語訳を調べたら「次から次へと引き継いでいくこと」とある。漢字訳なら逓送や伝逓が思い浮かぶ。乕は虎の本字。そこにシンニョウが付くと逓。四月二十日の郵政記念日もかつては逓信記念日だったが、なぜ虎の字が使われているのか?字書によると、古代、王は虎の頭のついた毛皮を身に着けており、そして自分の後継者に相応しい人物に、その毛皮を渡し後事を託したという。なるはどこれで納得がいく。父子相伝でなく、人物を見込んでの譲位である。禅家の法嗣(はっす)も同じである。
一月が英語でJanuaryというのは中学生でも知っているが、語源はヤーヌス神。ローマ神話に出てくる出入り口と扉の守護神で、前と後ろに反対向きの二つの顔を持つ双面の神様。なので物事の内と外を同時に見ることができた。一年の終わりと始まりの境界に位置し、一月を司る神であるところからJanuaryとなった。また入り口の神でもあるので、始まりの神でもある。
いささか回りくどい物言いになったが、璞社も一月から山本大悦会長、佐藤芳越・川崎大開両副会長の新体制となった。江口先生逝去のショックはとても急には拭えるものではない。それでも改歳の新しい出発には右記のような意義が有ると思う。璞社の全員で小坂先生と江口先生が提唱実践された道を迷うことなく、たとえ牛歩の如くでも前進していきたいと思う。
川村龍洲(書源2021年3月号より)
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