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気楽に生活、いや逆らうか

やろうと思えば数カ月先のすべきことは山ほどある。しかし明日の仕事はない。稽古、審査、解説、講演などなどそれらが何もない夜。そんな夜が一番気が楽でよい。明日はいつまで寝てもよい、と思うだけで気が休まる。

午後十一時、もう寝ようかなと思って目を閉じる。明かりもすべて消す。やがてここちよい眠気がさす。そんな時頭の中はいろいろ自分でも面白いくらいの発想、そして名案が次々と浮かんでくる。メモしとけばよかったと思っても、つい先ほどの名案瞑想はもうさらりと忘れて頭には残っていない。折角の眠気、メモなどしていたら目が醒めてしまうじゃないかなどと—。翌朝きのうの瞑想は何だったかなど考えても無駄。何も記憶などしていないに決まっている。

そりゃあ腐っても書家だから明日は○○展の作品を書くぞ-と思いながら寝ることもある。私は急に思い立って作品を書ける性格ではない。前日に明日は○○展の作品を書く日だと思って決めてかかって寝た時の方が気分よく書ける。極端な話半年か一年前に決めていた方が気分がよい。のっぴきならないスケジュールがはいってきたら予定をずらせばよいだけの話。だから私の場合締め切りギリギリに制作ということはほぼない。締切二、三カ月前に手帳に制作する日を書く癖がある。

昔からではない。いつ頃からそんなつまらぬ癖がついたのだろう。決めておけば安心で、あとは手帳に書いた予定通りにのんびり過ごせばいい。地震などと出道ったら運命さ、死ぬも生きるも運命さ、そんなこんなが作品に出ないものか-と。これは歳のせいだろうか、いや生まれ育ちのせいかも—。やはり歳のようだ。

数か月前の読売新聞だったか、砂漠の緑地化と台風進路の変更が出来ないものかとどこかの大学の若者が今後の研究のテーマにしたいといったことを書いていた。その新聞を大切にしていたつもりがどこへ行ったのやら—この前から捜しているが見つからない。最近こんなことばかり。自慢にもならない。
しかし本当の話、これだけ自然災害が続くと、自然に逆らう(逆らわないのが東洋の精神)研究もよろしくといいたくなる。宇宙探検や宇宙旅行の話はその後でごゆっくりと。

江口大象(書源2019年1月号より)

 
   

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