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評価

今年はピョンチャン冬季五輪、ワールドカップサッカー、アジア大会、夏の甲子園高校野球そしてテニスの大坂なおみ嬢の活躍と、スポーツ音痴の小生でさえもテレビ画面に釘づけになる日が続いた。速さ、距離、高さで表示される数字は絶対だ。またアイスホッケー、野球、テニスといった獲得した点数もしかり。或いは数字には出ないがレスリング、柔道のように勝ち負けで決まる種目も絶対評価である。そこに向かって挑み続ける選手たちの姿には文句なく感動した。
しかしフィギュアスケート・体操などは、最終的には複数の審査員の採点によって順位が決まるがそこに示された数字は、はじめの種目の数字とは質が違うと思う。では何か?と聞かれたら評価基準は『美しさ』であろう。そしてその『美しさ』そのものは正確に言えば数字ではない。

話は変わるが、二月はじめ長野の地方新聞に在仏の息子(長女の夫)の名前が載っていてビックリ。今年度のフランス版ミシュランガイドの一つ星シェフを獲得したのだという。
門人でフランス人のドミニク君が凄い栄誉ですよ!と祝いの電話をくれた。彼はフランス語教師で、信州産の日本酒をフランスにセールスに行っている。
そうは言っても息子は、ブルゴーニュの人口僅か150人の小さな村のレストランのシェフである。やがてフランス全土からテレビ、新聞、週刊誌や専門誌の取材が八か月経った今に至るも延々と続き、先月には世界を代表する経済紙〝Forbs〟にも特集記事が掲載された。

日本ではとても考えられないことだよ、とドミニク君に言うと「フランス人にとって料理を作る、ワインを作る、そして、料理を食べる、ワインを楽しむことは、我々にとって人生で最も大切な芸術活動そのものなのですよ」という答えが返ってきた。それは取りも直さず『美しさ』を求める究極のものだという。
続けて「書道もまったく同じではないですか。作品を制作する、そしてその作品を鑑賞して楽しむ。数値には表せないけれど美しさを求めることでは同じです」と。フランス人から、書道の魅力が一回性という厳しい条件下で表現される『美しさ』の絶対評価の芸術活動だと指摘された。

川村龍洲(書源2018年12月号より)

 
   

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