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百年後の地図

書は芸術か否かから始まって、戦後にわかに活気づいた書の欧米化運動。どちらが正しいか、これから百年もしないうちに結論は出るだろうが、どちらにも確固たる自信と理論がある。

それをどこかで闘わせてみたいが今はそんな空気ではないし、たとえやったとしてもあまり意味のあるものになりそうもない。一流の書家が自論をぶつけ、本人を目の前にして「あんたの今年の作品は悪いよ」などと平和に本音をいっていたのは昭和の三十年代で終わったか。社会の急激な退廃は急激な復興をもたらす。当然ここでは昭和二十年の敗戦が契機であるが、あのころの社会変化は目まぐるしくて、子供心にも面白かったと今振り返って思う。なつかしさのこみ上げる動乱の時代であった。

その中の小さな一つに書道界の多様性があった。私はその戦後の現象を未だに面白く見ているが、すでに議論は尽くされた感があり、ずっと平行線のまま。一本化する必要もないとは思うが、叶うことなら百年後の地図を見たい。そのとき書の文化が残っているか、誰の作品がどんな形で残っているか、そんなことも見たい。

この十年二十年はどの世の中の変わりようはすごい。すごすぎるが、漢字がなくならないことだけは祈っておこう。

江口大象(書源2015年2月号より)
 

 
   

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