投稿日: 2012-01-28
カテゴリ: 巻頭言(江口大象)
12月4日、今新幹線の中。今日は12月らしくない暑さの中で 「みなもと展」 の授賞式を先刻済ませて来たばかりである。大阪市立美術館の授賞式会場は、2回に分けてもなお超満員、子供の熱気でむせ返っていた。私は挨拶の中でくれぐれもやめないように、終生書を愛する人になってほしい旨を伝えたつもりである。
控室にさいたまの中山恂玉さんが持って来たという11月27日付の「河北新報」 のコピーが置いてあった。仙台の人気地方紙らしい。
かばんに入れて新幹線の座席についたのが4時過ぎ。はっとして改めてそれに目を通した。すごい文章力である。少し転載させてもらおう。
「大切にしたい文字文化」 仙台市袋原小6年 佐藤詩音
文字を見て感動することがある。例えばこの夏の「東北六魂祭」のタイトル。一目見ただけで、はっとした。力強い毛筆の字がまるで生きているみたいで心を打たれた。書いたのは私と同じ年の少年書道家と知り驚いた。(中略)
デジタル時代になり、多くの作家がパソコンで執筆し電子書籍の普及で本の姿まで変わろうとしている。
宮沢賢治が手帳に書いた「雨ニモ負ケズ」 の詩。その直筆を何度も見た。賢治はこういう字を書く人だったんだ、としみじみ思う。(中略)
文字を書くということは、それそのものが文化だと思う。毛筆は美術だと思う。日本語はとても美しくて、書いた文字にはその人の思いや魅力があふれている。(中略)
だからどんなに便利な時代になっても、文字を書く文化を大切に残したい。美しい言葉と文字を持つ日本に生まれたことに誇りを持とう。心を文字に表そう。そして、もっともっと自分の思いを丁寧な文字にして大切な人に伝えたい。
次いで家から持って来た「朝日新聞」を拡げる。「声」欄に思わず目が止まった。「漢字が日本語をはろぼす」という田中克彦氏の本を紹介している人がいて、中国の簡体文字、韓国のハングル文字を礼讃して、日本は1日でも早く「漢字克服に取り組め」と結んである。書いている人が福祉保健財団職員なので、日本の少子高齢化で今後大量に外国人看護師を入れざるを得ない局面が来ることを心配してのことがあるかもしれない。いわれる通り、漢字はさぞ外国の人にはむずかしかろうと思うが、先日のあの看護師資格をとる国家試験の問題は少々むずかし過ぎた。
両極端の文章を載せたが、前半は前半、後半は後半で今後の大きな問題を含んでいるようだ。
私にとってうれしい「前半」の問題点は、パソコン文化のあと戻りは絶対にないので、今後ますます手書き文字が減ってゆくだろうこと。作家、評論家の直筆原稿がなくなることで、文学資料館などは今から悲鳴をあげている。書家の悩みはそれ以上。「後半」の問題点は日本人個有の精神文明をどこまで守れるか、だろうか。
まあ数10年後の問題とはいえ双方ともいずれここで書かなければならないことなのかもしれない。
江口大象(書源2012年2月号より)
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