投稿日: 2022-04-03
カテゴリ: 巻頭言(他)
筆が割れてしまうとか、筆の腰がふらふらして書き辛いという話を時々耳にします。原因は筆自身にもありますが、ほとんどが使い方に問題があるようです。半紙調和体や多字数用の筆を根元までおろして書けばふらふらした線になるのは当たり前ですし、また手入れが過ぎると割れることがあります。
先ず手入れの仕方です。書き終えた後、水道で水を流しながら筆先を洗いますが、墨を完全に取ろうと流し台に筆の根元をトントンと叩く人がいます。それをすると筆の根元が広がり割れる原因になるのです。筆の手入れは穂先を水道水で流しながら墨を取りますが、墨が少しくらい残っていてもかまいませんので、指先でつまむように穂先を整えながら水分を軽く取ります。後は反故の上に寝かせておけば翌日には水分がとれますので、それから筆立てに立てるようにして下さい。くれぐれも洗い過ぎないことです。また洗った後、反故で水分を拭き取り過ぎると筆の表面だけが乾燥して毛羽立ち絡まります。これも割れる原因のひとつです。
次に新しい筆のおろし方です。新しい筆は糊で固めているものが多く、手でほぐす必要があります。そのほぐし方とほぐす量が問題です。私は子供の頃に上達すれば筆は根元までおろして書くものだと教わりましたので、それに憧れたものです。ところがどんな筆でも全部おろしてよいのではありません。極端に言えば、かな用の小筆は全部おろしたりはしませんよね。同様に半紙調和体や多字数の筆も根元までおろさない方が良いでしょう。私は半紙用筆も根元を残します。目安としては穂先の半分使おうと思えば2/3おろすし、1/3使いたい場合は半分までおろします。太く書きたい条幅用筆は全部おろしています。ただし条幅用筆でも長鋒は少し根元を固めています。
全部おろさず根元を残していても手入れする時、洗い過ぎると根元までおりてしまいますので、その場合は根元を塁で固める必要があります。それにはコツが必要ですのでここでは触れませんが、根元を糸で強く縛ったり、根元を墨で固める方法を間違うと、かえって割れる原因にもなりますので注意が必要です。
いずれにしても、どんな高価な筆でも新品の時は書きにくいものです。筆は何らかの手を加えて自分好みに育てるものだと思って下さい。自分好みに育てた筆にも寿命があります。大切に使って寿命を延ばすことは出来ても、いつかはダメになります。だから使いやすい筆だからといって、それだけを使うのではなく、平行して新品の筆をおろして自分好みの筆を複数作っておいて下さい。そして筆などの道具を自分の味方につけて、より良い作品が書けるように精進したいものです。
山本大悦(書源2022年4号より)
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