投稿日: 2020-05-31
カテゴリ: 巻頭言(他)
数年前に、書道界の流れとして肉太で墨量たっぷりの作品が流行っていましたので、私自身機会あるごとに皆さんにそのことを訴えてきました。ところが最近はそこまで太さは問われないように感じています。それより一本の線の強さがより求められているように思います。
ところで太細や墨量、強弱などの程度は人それぞれです。普通といっても個人個人微妙に基準が違うし、感覚に左右されるものならなおさらです。自分自身の持っている普通と思っている基準との比較によって太細や大小を判断し表現するだけでは不十分です。ここでは書道界の動きとの比較が大切なのです。
話は脱線しますが、以前私が高校で書道の教師をしていた時に、比較することによって多彩な表現をする実験をしたことがあります。例えば半紙に「風」一文字を条件を加えずとりあえず書いてみます。それを以後の基準にします。次にそれより太く書く、細く書く、大きくまた小さく書く。それらを複合的に太く大きく書く、太く小さく書く。細く大きく、また細く小さく書くなど一番最初に無作為に書いたものと比較して大小や太細の変化を表現するわけです。更には墨量を変えて潤渇の変化や墨の濃淡、運筆の遅速などの変化までも大小や太細の変化に加えていくのです。かなりの組み合わせになるのですが、その実験によって書作品の多彩な表現が体感できるのです。この実験は無意識に書いた一番最初の作品を基準にし比較していくわけですが、他人との比較は必要ありません。
さて話を元に戻しますが、書道界の流行に乗り遅れまいとするならば、書道界全般との比較が必要です。書道界の流行の推移を見極める方法は展覧会に足を運び多くの作品を見ることです。そして書道界の傾向と自分自身の作品とを比較してください。大小や太細また潤渇などは他人との比較でわかると思います。他人の作品を見ても何も感じませんという方は論外です。ただし冒頭に触れた強い線を表現するための方法は筆法の問題ですので比較しただけでは無理です。「線質」は書家にとって最大かつ永遠の課題なのです。
山本大悦(書源2020年6月号より)
コメントを残す