投稿日: 2020-03-30
カテゴリ: 巻頭言(他)
璞社錬成会部部長の岩本青雲さんから、今年5月の不死王閣での璞社錬成会夜間講座で漢詩作法について話をして欲しいとの要請があった。漢詩の専門家でもないし、ましてや食後の講座なので、漢詩作法など面白くもないし、聞いている人は眠くなるのが落ちであるから一旦はお断りをした。しかし、熱心に要請されるので、仕方なく引き受けることにした。数年前に青森の錬成会で漢詩作法の話をしたのが、要請の伏線になっているようだ。
確かに、璞社は漢字を主体とした団体であり、大方の方が漢詩作品を書いている。その題材たる漢詩のルールや作法を知ることは意味のないことではなかろう。璞社創設者の小坂奇石先生は漢詩を作れる書家として知られていたし、しばしば自作詩を書の題材にされた。特に米寿の個展の際は相当数の自作詩の作品を発表された。また書源誌は小坂先生のご意向で、創刊時から「漢詩の味」や、「今月の創作題材」のコーナーで漢詩の啓蒙をされた。「漢詩の味」は小坂先生と同じ土屋竹雨門の高弟笠井南邨先生に、笠井先生の後は同じく土屋門の進藤虚籟先生に長らくお世話になった。また、「今月の創作題材」は小坂先生ご自身が担当され、その後は璞社の中での幾人かの担当を経て、現在は山本康夫氏が担当されている。毎号テーマ性をもった漢詩や詩句を紹介されており、山本氏ならではの労作である。まさに創作題材に最適である。漢字が並んでいるとつい目を背けたくなるが、懇切丁寧な解説がなされているので是非毎号目を通していただきたい。そして活字を見て直接創作をすることにチャレンジしていただきたいと思う。
小坂先生もお若い頃に会社の上司に「書をやるなら漢籍の勉強をせねば。」とのアドバイスを受け複数の漢詩文の先生に師事し指導を受けられた。小坂先生の時代は漢詩に精通した先生方がいろいろおられた。川村驥山、松本芳翠、津金寉仙などは自作詩を作品にしておられた最右翼だ。小坂先生は驥山先生を慕っておられ、驥山先生も小坂先生の風骨を愛し接せられた。戦前の東方書道会からの小坂先生の師黒木拝石を通じてのご縁であるが、共に漢詩を作るという共通項があった。余談ながら、現在、驥山館館長の川村龍洲氏、ご子息の文齋氏が璞社に所属されているのも、東方繋がり、漢詩の取り持つ奇縁と言って良いのではないだろうか。
かつて璞社の諸先輩も小坂先生に倣って漢詩を作られた。齊川青鷲氏の父君の齊川惺堂氏、金谷桃果氏、上田渓水氏、北畠右聊氏など他にもおられたと思う。現在も樫本桑牛氏は漢詩と南画を駆使してご活躍であるし、山本康夫氏は作詩指導もされている。
漢詩、特に近体詩(キンタイシ 唐代初期に完成した詩体。絶句や律詩など。)は平仄(ひょうそく)をはじめとした最低限のルールを守らないと漢詩とは言えない。逆にそれさえ守れば一応漢詩となる。まずはそこを通過して入口に立つことである。かくいう私も進藤虚籟先生に通信でご指導いただいたレベルで、入口にも立たないまま、先生はご逝去された。そういう私が錬成会でお話をするのであるから、何とも心もとない。
どうぞ錬成会にご参加いただき願わくば寝ずに拙い話をお聞きいただきたい。
佐藤芳越(書源2020年4月号より)
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